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離乳食ウォーズ モーグ1

お口を動かして物を食べる、という事を

最初どうやっておぼえたのかを、私は記憶していないので、

娘がどうやって食べることを習得していくのか、興味深かった。

 

まず最初、娘は、私の食事をよく見るようになった。

 

食事中に娘と目が合うので「食べますか?」と聞くと

無視してくるのだが、そのうち、

私が口を動かして食しているとこちらの口元を見るようになった。

 

ある日、妻に、

「娘にモグモグを見せてあげてほしいんだけど」と言われた。

「どうして?」

「もうすぐ6カ月目だから離乳食を始めようと思って」

「モグモグを見せるといいの?」

「そう、まずはたくさん見せたい」

 

 

この日から、娘にモグモグを見せる日々が始まった。

妻の「モーグモーグモーグ」の声に合わせて、私は変顔で口を動かした。

あまりに口を激しく動かしすぎて、私の差し歯が抜けてしまったほどだった。(本当)

 

抱っこしながら妻は娘に、

「顔はマネしなくていいからね~」と言った。

 

そうしているうちに、娘は私のモグモグを真似するようになった。

真似しておぼえていくんだなぁ。

 

マネするようになってからは、

食事中は必ずするし、食事中でなくても天井を見ながら

口をモグつかせ、頻回になり、それを見た妻は離乳食を開始することを決定した。

 

妻によると本来、離乳食を開始するのは、赤ちゃんの腰が据わって、

ひとりで座れるようになったりしてから、がいいらしいのだが、

モグモグを見せつけているのもなんとなく可哀そうな気持ちもして、

始めることにした。

 

おじやを擦りつぶした物を与えるのだけれども、

最初は練習、娘にスプーンだけを口にもっていくと、ちゅちゅ、したので

これは大丈夫そうだ、という事になり、

今度はスプーンに少量のせて、娘の口元に持っていく。

 

すると、練習同様、ちゅちゅ、して食べた。

 

「上手ぅ!」と妻が叫んだ。

 

私は驚いた。

予想では、咳き込んで、背中を軽く叩きながら、

 

「ハハハハハ、まだちょっと早かったかなぁ」

「まぁまぁ、最初っからできるわけないよね」

 

とかになると思っていたのだが、普通に食べた。

 

そしてこの後、妻の「上手ぅ!」は3回聞くことになり、

娘は初めての離乳食を完食した。

 

しかし、私は見逃さなかった。

 

娘の口である。

モグモグしていなかったのである。

 

これは食べた、というのであろうか。

娘の口の中には、もう離乳食はなくなっていたから

飲み込んだのだろうけど、モグらなかったのが気になったので

妻に話してみると、

 

「変顔を見せつけすぎたんじゃない」

 

「え? 顔?」

 

私が、あれほど、差し歯までぶっ込むほどに、

お手本として、変顔でモグったのは一体なんだったのだろう。

 

俄然、私はやる気が湧いてきた。

娘の口を見ながら、思った。

 

私は、私の顔で、娘をモグらせてみせる。